第36回 中国は収入が低いのに生活しやすいか?[今日の中国]
- 2021/7/18
- 中国
光熱費や食材が激安 支出が低く住みやすい
中国の経済を語ろうとすると、どうしても「貧富の差が激しい」というイメージが強いと思います。特に農村部は年収も低く、苦しい生活を過ごしていると思われている方も多いでしょう。しかし、実際に長年中国で生活している私からすると、日本よりも中国の方が住みやすいと思えることが多々あります。なぜこうした認識の違いが生まれるのでしょうか。今回は中国の生活に関する経済事情を紹介します。
今年5月19日に中国国家統計局が2020年の中国国内の平均年収を発表しました。これによると、都市部の日私営企業(国有企業・株式会社・外資企業など)に勤める人の平均年収は9万7379元(約167万円)、私営企業に勤める人は5万7727元(約99万円)。都市部の人の多くは共働きなので、手取りベースでの世帯年数は約154万~258万円程度だと考えられます。
また、農村部の年収は手取りベースで1万7131元(約29万円)でした(中国国家統計局・2021年1月公表データ参照)。高齢者や子供など非労働者も含まれた平均金額であるため、1世帯3人と過程した場合の世帯年収(手取りベース)は5万1393元(約88万円)と考えられます。農村部での一般的な世帯年収は5万~6万元(約86万~103万円)と言われているため、概ね予想通りの金額だと言えます。
収入だけを見れば、日本よりも非常に低い金額であることがわかります。高級外車を乗り回す一部の裕福層を除けば、やはり収入面は日本には遠く及びません。
こうした実情にも関わらず中国が住みやすい国だと感じる理由は、支出も低いためです。私が住んでいる上海は、よく海外の人から「物価が高い」と思われることが多いのですが、実際には住宅費以外は日本よりも断然安価です。たとえば、電気・ガス・水道料金は1世帯3人家族で月200~300元(約3400~5100円)程度。インターネット料金も通信速度50Mbpsで月50元(約850円)、200Mbpsなら月80元(約1300円)、500Mbpsでも月160元(約2700円)程度です。スマートフォンの通信費用はだいたい月50元(約850円)で、ネット回線とセットにしている人ならもっと安いでしょう。他にも、地下鉄料金は初乗り2~3元(約35~50円)、郵便料金は1.2元(約20円)、宅配料金は同地域内(市内・省内など)なら6元(約100円)、地域外でも12元(約200円)程度です。これらはあくまで一般的な金額であり、農村部で水道料金が無料だったり、インターネットが無料で使用できる地域もあります。
食材費など食事にかかる費用も日本より安価です。一般的な米ならば10kgで850円程度、小麦10kgも850円程度で購入できます。卵は10個で約85円。肉も安くて、牛肉なら100gあたり約100円、豚肉は100g約70円、鶏肉にいたっては100g24円程度で購入できます。もちろん、魚や野菜も安価です。日本での食費と比べれば、半分~4分の1程度で収まると考えられます。このように材料費が安いからこそ、飲食店での費用も安く、結果として外食を利用する人が多いのです。
また、住宅にかかる費用も日本とは異なります。上海など都市部では物件の価格が高騰していますが、他の地域では安価に収まることが多いです。低所得地域に対しては国が建設費の補助を行っていますし、共産主義国なので所有という概念がないため、固定資産税もありません。
一般的に言えば、収入が高ければ高いほど生活は豊かになると考えられます。しかし、世界でも先進国家である日本での生活は豊かと言えるでしょうか? 年収は高くても支出も高く、生活に困窮する人は少なくありません。一方、中国は収入が高くありませんが、支出も低いため、皆さんの想像しているほど貧しい生活をしている人は少ないのではないかと思います。もちろん、こうした金額は平均値であり、中国にもたくさんの生活困窮者がいます。「中国の方が豊か」とは言えませんが、「中国は収入が低いから生活水準も低い」という考えは間違いだと言えるでしょう。