バーチャルオフィスの利用急増 oVice、提供開始から1年半で利用数2000社に

 バーチャルオフィスを提供するoVice(オヴィス:石川県七尾市)が、利用者数を伸ばしている。サービス開始から1年半で約2000社と契約を結び、1日あたり5万人がoVice上のオフィスで働く。利用企業は、新型コロナウイルスの感染拡大以降に、テレワークを導入した企業が多いという。ジョン・セーヒョン代表取締役に話を聞いた。

▲右 ジョン・セーヒョン代表取締役

大手からベンチャーまで毎日5万人が働く

―『oVice』はどのようなサービスなのでしょうか?

 2次元で表現された、バーチャル空間のオフィスです。自分のアイコンを動かして、話したい相手のアイコンに近づけると、話しかけることができます。会話する人たちの近くにアイコンを近づければ、2人の会話が聞こえてきます。実際のオフィスにいるような感覚で相手の状況を見ながら、話しかけたり、様子をうかがうことができるのが特徴です。

 oViceではURLが住所になります。セキュリティを自由に設定できるので、ログインパスを知る人だけが入室できる鍵のかかったフロアや、誰でも入室できるロビーのようなフロアを用意することもできます。1フロアの収容人数は50〜500人で、200人規模のフロアを複数使う企業もあります。複数フロアを重ねてオフィスビルのように利用することも可能です。フロアのデザインは500〜600のレイアウトから選択でき、デザインソフトや手書きのイラスト、写真からもフロアを作れます。

―利用者数が増えているということですが?

 これまでに2万フロアを発行しました。2021年の年初は2000フロアだったので、提供したフロアは1年で10倍になりました。9割が日本企業で、製造、製薬、ITなど業種は多岐にわたります。足元でも、新規契約が月数十社に及んでいます。

ービジネス目的に特化しているのですか?

 ビジネス目的に特化した空間の提供を目指しています。どんな世代でも、スペックが高くないパソコンでも、一般的なブラウザーで使えることが特徴です。VR(仮想現実)を使うような個人向けの『メタバース』とは区別した『ビジネスメタバース』として打ち出しています。小売業のようなBtoCの導入事例も多くありません。BtoBに特化しており、消費者向けのサービスとしては想定していません。

 一方で、勤怠管理や会議などの機能追加を要望されることが多いのですが、自社開発せず、他社のサービスと連携する方向で進んでいます。Zoomとはすでに業務提携しています。

テレワーク下のコミュニケーション不足解消に

―導入企業は、どのように利用していますか?

 出社時間になったら、ブラウザからoVice上のオフィスに出勤し、終業時間になったらログアウトします。勤務時間中はブラウザを開きっぱなしにしておきます。誰かに用があれば移動して声をかけ、社内ミーティングの時間になったら画面上で会議室に移動します。リアルのオフィスでの行動と同じです。クライアントにURLを伝ることで、商談の場としても活用できます。

▲バーチャルオフィス上に出勤するとアイコンが表示される

 人材サービスのエン・ジャパン(東京都新宿区)の場合、全スタッフの9割がテレワークをしており、oViceにあるオフィスに出勤しています。リアルのオフィスに出勤するのは、総務など一部の部署だけです。また、社名を公開できませんが、数万人のスタッフを抱えるIT企業は、oViceにある88階建てのビルで、3000人が働いています。まだ全社導入には至っていませんが、半年前10人程度あったので、1つの企業の中で利用が広がっていることがわかります。大手自動車メーカーのグループ企業では、半年で、数十万人いるスタッフの10%に広がりました。

 韓国には、テレワークを導入していないにもかかわらずoViceを活用する大手企業もあります。リアルのオフィスビルがあまりにも大きく、他部署に用がある際の移動が大変なので、oViceを使っています。

 オフィス利用が大半ですが、我が社が提供するのは空間であり、利用法に制限はありません。イベント会場、学校、学会など、リアル空間でできることはなんでも代替できます。忘年会やオンラインサロン、物販の会場としての利用例もあります。

―相性が良いのはどんな企業ですか?

 テレワークにおいて、コミュニケーション不足の課題を感じている企業です。元々テレワークを採用していたIT業界よりも、長年オフィスに集って仕事をしてきた企業の方が、コロナ下で始めたテレワークに課題を感じています。今そこに応えられるのはoViceしかありません。

 リアルな空間での業務を前提にした会社のワークフローを、完全なリモートワークに移行するのは難しいでしょう。それぞれの文化やワークフローによって、各社がオンラインとオンラインの最適なバランスを探るのではないでしょうか。我が社もオンオフの二者択一ではなく、ハイブリッドでの活用を提案しています。

―ビジネスイベントでは利用されていますか?

 oVice上に設けたセミナー会場で、YouTube、アンケートフォーム、資料DLなどリードを獲得できる様々なコンテンツを組み込むことが可能です。来場者はリアル同様に会場内を回遊し、主催者は来場者に声をかけることができます。仮想空間と言っても、声のかけにくさはリアルと同じです。現実世界の不便をなくすのではなく、リアルに近い形を目指しているので、リアルのわずらわしさも再現したいと考えています。

 一般的なオンラインイベントでは、会場を移動する状況が生まれないため、講演終了後に話しかける機会がありません。oViceなら、空間に残った人の間でコミュニケーションが生まれます。グループを作って会話することもできます。

▲画面上の線でつながった人同士で会話ができる

不動産業界との提携により、ハイブリッドなあり方も考える

―不動産業界への影響が気になります。どんなことが起きていますか?

 リアルのオフィスとは共存が難しいです。oViceを導入したことによって、大型のオフィスビルを解約する動きも発生しています。しかし、我が社はそれを望んでいるわけではありません。テレワークを含めたオフィスの最適化のために、そのような判断が起きていますが、共存する新しい動きも生まれるはずです。不動産業界には警戒されていますが、提携する会社も現れており、リアルな不動産とのハイブリッドなあり方も考えています。

―今後oViceは売買物件になる可能性はあるのでしょうか?

 2〜3年後には実現できると考えています。例えば人材派遣会社がオフィスビルを作り、割引価格で企業を入居させます。スタッフの出入りのログが取れるので、人材が不足していると分かれば、スタッフの派遣を提案できます。家賃と人材派遣で収益を生むビルとして付加価値が高まれば、別の人材派遣会社に転売できます。将来的に、ビルそのものがNFT(所有者を証明できるデジタル資産)になると感じています。

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