緊急事態宣言を来年1月15日まで延長 @タイ・バンコク【11月20日/新型コロナウイルス世界の反応・現地レポ】

▲ 即位後からタイ国内では現国王の肖像画が飾られるが、支持率は低下しつつある

 タイ政府が今年3月下旬に発令した非常事態宣言を来年1月15日まで延長することを発表した。タイ国内での感染者数は長期間にわたって非常に少ない数値での推移が続いており、11月20日の新規感染者数は4人。11月に入ってからは多い日でも10人程度にとどまっている。

 そんな中、タイで注目を集めているのが反政府運動だ。タイでは2006年から政情的に不安定な状況が続いているが、今年7月に入ってからは、若者を中心に長らく続く不況から軍事政権に対する不満が非常に高まっている。さらにここ数カ月前からは、これまでは批判の対象とすることをタブーとされていた王室に対しても批判の矛先が向いている。

 タイでは王室不敬罪の刑事罰があるため、こうした王室批判が起こること自体近年のタイでは経験がなかった。だが、11月半ばに現国王が帰国した際も、現国王の車列に対し反政府デモ隊を指示するシンボルである「三本指を立てたポーズ」を立てる人や、車列に背を向ける人の姿が見られ、不穏な空気が漂い始めた。最近ではタイの各地で現首相の退陣と王室不敬罪の撤廃が叫ばれるほど運動が広がっている。

 王室批判が高まっている背景には、現国王の支持率の低さもあるようだ。現国王が即位したのは2016年10月のこと。前国王は国民から国父と敬愛され絶対的な支持を得ていたが、現国王は皇太子のときからタイ国内ではほとんど生活しておらず、今もドイツに滞在していることがほとんどで、前国王に比べて支持率が高いとは言い難い。また、近年はインターネットの発達によりタイ国内にいながら海外の現国王の動向を把握でき、SNSによって意見の伝播もしやすいことから、王室批判拡大の流れに歯止めをかけることができないようだ。

 緊張状態が続く中、今月に入って政府は王室に関する内容を含めた憲法改正案を国会に提出。反政府側に対して譲歩した形となったが、高齢者層などを中心に王室支持者も多く、提出された憲法改正案のうち王室に関する部分は否決される結果となった。これにより反政府側の活動はさらに激化し、各地で大規模なデモが実施されている。現在は警察による放水などで抑え込んでいるが、反政府デモ隊側に数十人の怪我人も出ており、今後さらに過激化することは避けられない状況だ。

 もっとも、反政府運動に対して冷静な国民も多い。タイの各地でデモが起こっているものの、全ての国民がどちらかの派閥に肩入れしているというわけでもなく、デモ隊が集まる地域以外ではいつも通りの日常が続いている。ただ、今後さらに反政府活動が活発していけば、政府による武力行使の可能性もあり得る。タイでは2010年、2014年に反政府デモが暴徒化して大騒動になったこともある。これまでは王室による仲介によって反政府運動が沈静化していたが、今回は王室に対する批判も高いため、かつてない危機意識が高まりつつある。

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