名刺管理システムのSansanがイベントテック事業へ参入

▲Sansan(東京都渋谷区)の林佑樹執行役員

 名刺管理システムのSansan(東京都渋谷区)は昨秋、イベントテック事業への参入を明らかにした。2019年末にセミナーの書き起こしメデイア『logmi(ログミー)』を買収、イベント運営システムを提供するスタートアップ・EventHub(イベントハブ・東京都中央区)への出資、さらに、イベント参加者データを正確に収集するシステムを自社開発するなど、近年になってイベントテック事業に対して活発な動きを見せていた。時を同じくして新型コロナの感染拡大に見舞われるも、オンラインイベントを積極的に主催するなどビジネスイベント市場におけるプレイヤーとしての存在感を一気に増している。イベントテック事業の責任者林佑樹執行役員に、イベント市場に見る市場性と今後の事業の方向性について聞いた。

なぜイベントテック事業に参入するのか?

 これまで我が社が展開してきた名刺管理システムで作り上げてきたノウハウを使うことで、イベント市場にイノベーションをもたらすことができると考えた。

 きっかけは2018年に幕張メッセで開かれていた展示会に参加したこと。チラシのようなチケットを持っていき、受付に名刺を渡す。名刺には会社名や名前が書かれているのに、同じ内容を手書きする。会場に入ると多くの人と名刺を交換する。そんなことをしている間に、本来の目的すら忘れてしまう。展示会自体は非常に価値ある場なのだが、そのやり方は昔から何も変わっていなかった。

 イベントは人と人が出会うことをきっかけに、さまざまな情報や価値を生み出す場だ。その情報や価値をさらに活用できるようにするためのソリューションを構築していきたい。まずはイベントの開催、運用、アフターフォローなどにおける細かな課題を解決するサービスを展開していく。

イベントがどんな課題を抱えていると考えるか?

 開催、運用、アフターフォローなどそれぞれのフェーズに多くの課題があると思う。我が社も「Sansan Innovation Project」というBtoBイベントを開催しているのだが、会場に来てくれた人の感想をしっかりと聞く方法に不足を感じた。例えば、このイベントでは多くの著名人に講演をしてもらっているが、それを聞いてどう思ったか、満足してくれているのか、といった本音だ。主催者による一方通行の情報発信ではなく、来場者の本音もしっかりと聞き出し、双方向のコミュニケーションを取りたいと考えた。そうした考えからアンケートツールの開発を手掛けるクリエイティブサーベイ(東京都港区)に出資し、連携することになった。

 また、イベント運営システムにも課題があった。イベントで最も大切なことは人と人との出会いだが、より深いコミュニケーションを取るにはさまざまな障害がある。そこで注目したのが『EventHub』だった。イベント運用システムでありながら、来場者とのコミュニケーションまでフォローしてくれるサービスで、イベントでのより良いマッチングにつながる。我が社のイベントはすべてこのサービスを活用しており、出資して連携を深めることになった。

 『Eightオンエア』ではさまざまなオンラインイベントと出会える機会を提供したいと考えている。ビジネスマンは情報収集のためにもっとイベントやセミナーに参加したいと思っているが、一方で、実際に参加するのは大変だ。数多い中から自分が行きたいイベントを選ぶだけでも労力を必要とする。情報収集のためだけであれば新聞など他のメディアで代用できるが、人と人をつなぐ場は替えがきかない。『Eight』上の知り合いの参加状況が確認でき、あの会社の、あの人が行っているから自分も行こう、という感覚で参加することができる。 こうした課題を解決するサービスを展開する上で大切なのが、データの蓄積と管理だ。アンケートツールの『クリエイティブサーベイ』や『EventHub』『logmi』などのサービスは全てデータを蓄積していく。こうしたデータを活用することで、イベントを“見える化”する。どのイベントでいくつの商談が生まれたのか、いくつの受注につながったのか、より詳しい情報も管理できるようになる。そうなれば来場者の人数だけでイベントが評価されるのではなく、もっと奥行のある評価がされるようになると考えている。

イベントの”見える化”とは?

 イベントで得られた情報は非常にアナログな方法で管理されていることが多い。例えば出展者の場合、イベント会場で獲得した名刺に担当者が見込み度合いを直接手書きで名刺に書き込む。例えば、見込みが高ければ「A」、まあまあなら「B」、低ければ「C」。その名刺は営業担当者に渡されて、「A」の名刺には架電、「C」にはメルマガを送る。実際に名刺交換をした時にはたくさんの会話をしてさまざまな情報を引き出したのに、それは営業担当者には引き継がれない。

 一方、我が社のサービスを活用すれば、イベントで名刺をスキャンすると、その場でデータを会社全体で共有できるようになる。「A」~「C」までの判別はもちろん、会話で得た情報も蓄積させていくことができる。名刺交換した人が初めて会った人か、以前もイベントに来てくれた人かも分かる。名刺交換したその場で相手に資料をメールすることもできるし、そうしたメールをいつ読んでくれたかも把握できる。こうしたアナログな出会いにデジタルを融合させることで、継続的なコミュニケーションが取れるようになっていく。

 主催者にとっても来場者データの把握に奥行が生まれるようになる。もちろん、現状でもしっかりと来場者の分析をしているだろうが、より詳細なデータを蓄積させることができるようになる。来場者の属性も正確に把握できるほか、セミナーへの関心具合も分かる。どんな人がどんな話題に興味を持っているのか、どの役職の人がどの講師の話を聞きに来るのか、さまざまな属性が見えてくる。好評だったイベントをアーカイブして再販することもできるかもしれない。

Sansanのイベントテック事業が目指すものは?

 イベントの”見える化”の先では、イベントをマーケティングの領域でさらに活用できるのではないかと考えている。イベントのさまざまなデータが把握できるようになることで、テレビCMやウェブ広告のようにイベントを活用することができるようになる。他のメディアと比べるとイベントの市場規模はまだまだ小さい。大手企業らが広告メディアに数千万円から数億円という莫大な予算をかけているのに対し、同じだけの金額をイベントにかけている企業は少ない。まだまだイベント市場は成長の伸びしろがある。

 我が社はそうしたイベント市場のインフラになっていきたい。さまざまなイベントの情報を蓄積し、それを主催者や出展者に提供していくことで、イベントの新たな価値を提供していく。営業の場としてだけではなく、マーケティングの観点を取り入れることが大切だと考えている。

蓄積されたデータに基づいたコンサルなども展開する?

 場合によってはそうした事業もあり得るかもしれない。どのイベントにどういう人が来やすいか、どんな商談が生まれたか、イベントを改善させるための分析もできるだろう。そうした作業をサポートするソフトウェアを開発するかもしれない。サービスを実証するために私たち自身が主催者になることもあるかもしれない。だが、最も大切なのは既存のイベントの主催者や代理店などこれまで業界を支えてきたプレーヤーとの協力だと思っている。私たちはプレーヤーになりたいわけではない。イベント業界を盛り上げるため、イベントの効果を最大化するために、テクノロジーやデータを提供する立場でいたいと思っている。

 今はイベントにおけるそれぞれのフェーズの課題解決でしかない。だが今後は、それぞれの課題解決サービスをスピーディーに展開していくと同時に、市場全体を統合するソリューションも考えていきたい。産業の構造を変える必要もあるかもしれない。非常に大きなパワーが必要となるし、他の企業との連携も必要だ。だが、イベントをさらなる大きな市場へと昇華させるために、全力を尽くしたい。

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