全国各地の大学で反政府集会始まる @タイ・バンコク【9月19日/新型コロナウイルス世界の反応・現地レポ】

▲日常生活に支障はない

 タイでは2006年に起こった無血クーデター以来、国内が二分され政治情勢が不安定な状態が続いた。一方が主導権を握れば、もう一方が市場に経済的打撃を与えてでも邪魔をする。国民は、着地点のない抗争に嫌気が差し、タイ陸軍幹部が2014年に起こしたクーデターを歓迎した。だが、その後の軍政は、権力を維持するために憲法を改正し、選挙で台頭する新勢力を握りつぶした。やがて、タイ国民も疑問を抱くようになった。

 声を上げたのは大学生を中心とする若者たちだ。政府に異議を唱え、コロナ禍において活動は一層大きくなった。若者たちは現国王であるラマ10世王に対しても声を上げた。タイには王室を守る法律があり、王室批判は有罪となり刑務所に収監される。この法律の撤廃を若者は求めているのだ。

 これまでタイでは公において国王批判がなされることはなかった。メディアも王室にネガティブなニュースは取り上げない。前国王のラマ9世王は国民に絶大な人気を誇り、2016年に崩御するまでタイで王室批判を聞くことはほぼなかった。

 現国王は即位前から現在に至るまで、1年の大半をドイツで過ごす。王室資産は莫大で、世界の国王の中でも特に裕福と言われる。数年前からタイは不況が続き、コロナ禍で失業者は一層増えた。だが、王室資産が国民のために使われることはなく、不満が頂点に達しつつある。

 9月20日、大規模な反政府集会が各地で開催される。学生が中心であることから大学が会場になっており、政府は数日前から各大学に集会の中止を要請している。だが、応じるグループはほとんどないようだ。

 前日、会場設営と集会のため、王宮前広場には5万人が集結し、警察関係者1万人との間でもみ合いとなった。皮肉にも前国王の国葬が行われた場所である。「権力を国民に返せ」とスローガンを掲げる集会関係者らは警察に怯むことなく会場に入った。マスコミが駆けつけている中、警察は武力行使ができず、広場を明け渡した。この内容を正面から報道するメディアの姿勢も以前と大きく変わった。王宮前広場の集会はこのまま20日まで続く見込みだ。

 運動がタイ全土に広まり、政府と王室は厳しい状況に追い込まれつつある。1970、80年代のように、武力行使でどうにかできるものでもなく、国民が納得する落としどころを見つけない限り、状況は一層不安定さを増すだろう。新型コロナの感染拡大が終息したとしても、この状況では海外の観光客も戻ることはない。観光立国タイの復活には長い時間を要する。政府の動向に注目である。

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