高知県西部にある黒潮町は、スポーツを目的にした観光客を増やしている。2012年度1664泊だった宿泊総数は、2017年度に1万1821泊になった。スポーツツーリズムによる観光客誘致を主導するのが、黒潮町が母体となるDMO、砂浜美術館だ。地域に美術館はない。「地元の海や砂浜、生き物たちそのものがアート作品、という思いを込めて名付けた」(村上健太郎理事長)
1989年に設立した当初は目立った観光資源がなかった。観光客を呼び込むために町職員と地元のデザイナーが始めたのが、約4キロメートルの砂浜に1000枚のデザインTシャツを干して並べる「Tシャツアート展」だ。30年たった今も続いており、町のシンボルとなった。
イベントの知名度は高くなったが、持続的な観光客の呼び込みにはつながらなかった。通年で人を呼び込むために、取り組んだのがスポーツを通じた観光客の誘致だった。
町内にはスポーツ施設が充実する。砂浜に隣接した場所には、天然・人工芝合わせて4面分のサッカーグラウンドがあり、体育館や室内設備もある。温暖な地域なので、冬場の閑散期もスポーツ合宿や大会の誘致につなげることができている。
最近は、海岸部周辺で行われるホエールウォッチングやカツオのたたきづくり、天日塩づくりなどの体験プログラムをはじめ、スポーツ以外の観光需要も組み合わせたプロモーションを行う。これらの結果が、宿泊総数が5年間で約7倍に増えることにつながった。
「訪れた人たちが『また来たい』と口にすれば、受け入れる地元民も『また来てほしい』と言う。そうしたやり取りが増えたことで、観光が地域づくりにつながっていることを実感する」(村上理事長)
今伝えたいこと
村上 健太郎理事長
黒潮町は交通の便が悪く、高知空港から車で約2時間かかる。「Tシャツアート展」は町おこしのきっかけにはなったものの、それだけに頼った観光では地域活性化につながらないと考えている。
スポーツツーリズムの成功は、地域に観光の経済効果を実感させた。地元の人たちと一緒に知恵を絞り、もっといろ いろな切り口で、観光による経済活性化の効果を見える化することが私たちの役割だ。黒潮町や地域事業者、教育機関との連携を今まで以上に深め、専門的な知見や客観的データで地域民へ観光による効果と成果を示し、事業推進につなげていきたい。
設立年:1989年
所在地:高知県幡多郡黒潮町浮鞭3573‐5 道の駅ビオスおおがた情報館内
参加県・参加県・企業:黒潮町、宿泊・体験・飲食・交通関連事業者、金融機関など約40社・団体
年間延べ宿泊者数:国内 2万2044人/海外 175人