▲街中に、車いすで乗車できるタクシーは一気に増えたが…

2020東京オリンピック・パラリンピックの観客数予測が、今も立たない。2012年に作成した立候補ファイルで「チケット販売予定数1010万枚」と記されたのが、これまでに出された予測に関わる唯一の数字だ。だが、東京都やオリンピック組織委員会でさえ、今、この数字を参考にしている様子はない。交通機関や公共施設のインフラ整備は進むが、円滑な観客輸送にどこまで効果を発揮するか、誰もわからないのが実情だ。都市計画の専門家からは、車いすやベビーカーの利用者、高齢者に向けた準備が遅れているという指摘も上がっている。

バリアフリー対応急務

「当時とは競技数なども変わっているので、今は1010万人という数字を前提にしていない」(東京都広報部)、「競技会場の最寄り駅は多くの客がくると予測している」(組織委広報)。オリパラ開催期間の観客数予想について、両組織に聞いたところ、明確な数字はないとした上で、このように回答した。東京メトロ(同台東区)、羽田・成田両空港と都心を結ぶリムジンバスを運営する東京空港交通(同中央区)なども、会期中の利用者数、その前提となる観客数について予測を立てられずにいた。

「競技日程の詳細が発表される今年の夏までは、数字を弾けない」「会期中に東京にやって来る人の数を、チケット販売数で測ってよいのかわからない」という声も聞こえてきた。これが間もなく2年を切る、オリパラ準備の状況だ。

これに対して、交通機関をはじめとする東京のインフラ整備は、世界的に見て先進的だと指摘する専門家もいる。スポーツツーリズム協会代表理事で、「スポーツ都市戦略」という著作もある早稲田大学の原田宗彦教授は「ほとんどの道路がアスファルトで舗装されており、駅のエスカレーターやエレベーター、多目的トイレの設置も進んでいる」と話す。

一方で、「今の状況だと、車いす利用者は大幅な遅刻を覚悟する必要がある」と話すのは、(一財)国際ユニヴァーサルデザイン協議会の古瀬敏理事長だ。理由は、エレベーターをはじめとするバリアフリー経路の混雑だ。

2000年に交通バリアフリー法が施行され、鉄道の駅には車いすに乗ったまま移動できる段差の無い経路の確保が求められてきた。都内主要駅のバリアフリー化は進んだが、エレベーターを設置できる場所が限られたため、大幅に迂回(うかい)しなければならない駅も多い。

また、大型の駅でも一つの経路しか確保されていないところが大半だ。そのためエレベーターを待つ車いすやベビーカーの利用者で、列ができることも多い。オリパラ開催期間には、さらに多くの車いす利用者がやって来ることが予想されることから、今年、複数路線が乗り入れる一定規模の駅には2つ以上のバリアフリー経路を確保するよう省令が改正された。だが、ハードで混雑を回避することには費用、時間、敷地の面から限界がある。都のオリパラ準備局では、都民一人一人にサポートを促すため、ユニバーサルデザインの理解を深める冊子を小・中学生向けに配布するなど、啓蒙(けいもう)活動を始めている。

ハードの不足、ソフトで補う

バリアフリー化やユニバーサルデザインの推進には多大なコストを要する。オリパラのための準備と考えると、負債ばかり膨らむように思えてしまう。だが、古瀬理事長と都の担当者は、「大きな経済効果を生み出す」と口をそろえる。経済的恩恵の受け皿となるのは観光だ。

「観光にお金を使うのは、世界中どの国でも年金受給世代。日常生活よりも不便なところに旅行する人たちではない」(古瀬氏)。段差がないだけでなく、日本語がわからなくても移動しやすく、心地よい環境を整えることが観光需要を生み出すということだ。都はオリパラのために新設する会場を、東京の住環境が象徴されるモデルルームと捉えるという。会場に訪れた来場者に東京の生活スタイルを伝え、また東京に来たいと思わせる仕掛けだと考えているからだ。

ソフトのバリアフリーを提供するのは一人一人の国民だ。来場者に対するもてなしが、最も身近なオリパラ後の経済対策になる。


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国際イベントニュース 編集長 東島淳一郎国際イベントニュース編集長 東島淳一郎
2009年全国賃貸住宅新聞社入社。劇団主宰者から銀行勤務を経て30歳で記者に転身。7年間の記者生活を不動産市場で過ごす。2016年9月、本紙創刊とともに現職。

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