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街ぐるみでホテル始めました【セカイホテル】
JR大阪環状線と阪神電車が交差する大阪・西九条駅周辺で、民家を改修した簡易宿泊施設が、1年の間に10棟つくられた。徒歩10分の範囲に、最大60人の宿泊客を収容するようになった街では、国内外から集まる観光客の姿が日常となった。地域の銭湯や、飲食店で振舞われる朝食は宿泊料金に含まれ、街一帯で宿泊客をもてなす。施設を運営するセカイホテル(大阪市)は「街ごとホテル」という発想を掲げる。
「明日、スペインから4人の予約が入ったから、スペイン語調べてたよ」野坂五夫さんがマスターを勤めるスナック「ニューマコ」はセカイホテルの宿泊客に朝食を提供する。全ての宿泊客が朝食を摂るわけではないが、14日の土曜日には25人がやってきた。日本人客がやや多いが、世界中から外国人客がやってくる。旅の思い出になるようにと、野坂さんは、なるべく声をかけるようにしている。
客層の中心は家族連れと、20~30代の若者グループだ。大半の人が西九条駅から電車で6分のユニバーサル・スタジオ・ジャパンに行くが、大阪ドームや梅田のライブハウスで行われるアイドルのライブを目的にする人も多い。韓国のアイドルを追っかけて韓国から来た女性グループもいれば、先日は、LINEで知り合ったという嵐ファンの日韓混合女性グループも来店した。
西九条で40年以上「ニューマコ」を続けて来た野坂さんだが、実は店をたたむ事を考えていた。周辺企業に勤める常連客に支えられてきたが、高齢化が進み店に来る人の数が減っていたからだ。そんな矢先にセカイホテルから、朝食提供の話が来た。今では、たたむ事を考える暇もない。
セカイホテルの宿泊客が「ニューマコ」のように無料でサービスを受けられる店は、西九条に4店ある。店舗には、サービスを提供した分だけセカイホテルから料金が支払われるシステムだ。
地域一帯で稼ぐ仕組み
周辺は長屋が広がる下町の住宅街だ。セカイホテルの宿泊施設も、住宅街の真ん中に点在する。空き家を買い取り、改修して簡易宿泊所に変えるのだが、壁一枚隔てた隣では地元の住民が日常の生活を送っている。「キャリーケースのガラガラという音がうるさい」「夜中までドンチャン騒ぎをしている」そんなクレームは何度も届いた。
だが、その数は1年前に比べ激減している。宿泊客に対する説明や、必要に応じた防音工事が効果を発揮したこともあるが、地元住民の信頼を獲得したことが一番の理由だ。セカイホテルは開業して以来、住民向けの説明会を毎月開催している。これまでに10回開催し、毎回20~30人が参加する。今、カギの受け渡しなどフロント機能を果たすセカイホテルの事務所には、毎日のように住民が訪れる。世間話をしたり、時には新しい空き家の情報が持ち込まれることもある。
この夏、2つ目の拠点として東大阪市・布施に進出する事を決めた。工事を始めるにあたり、2月末、一回目の住民向け説明会を開催した。「もちろん、大きな声が飛び交いましたよ」と話すスタッフの小林昂太さんにとっては、厳しい説明会も通過儀礼のようだ。継続して説明を繰り返し、理解者を増やす。それが西九条で学んだ「街ごとホテル」の運営ノウハウだ。
西九条一帯の初年度の平均稼働率は7割を超えた。今後も200人が宿泊できるまで宿泊施設を増やす計画だ。「地域の飲食店の経営が安定する目安として200人という数字を想定した」(小林さん)。5年以内に全国で5つの拠点を作りたいと考えている。
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国際イベントニュース編集長 東島淳一郎
2009年全国賃貸住宅新聞社入社。劇団主宰者から銀行勤務を経て30歳で記者に転身。7年間の記者生活を不動産市場で過ごす。2016年9月、本紙創刊とともに現職。
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