一市民がつくるスポーツツーリズム 【スポーツと地方創生②】

▲小倉氏が2015年に初開催した「犬吠埼エンデューロ」

全国各地でスポーツを地方創生の手段とする「スポーツツーリズム」の取り組みが活発になる中で、実際に地域振興につなげるにはどうすればいいのか。千葉県銚子市で民間企業ながらゼロからスポーツツーリズムに取り組む小倉和俊氏に話を聞いた。

スポーツと地方創生②

■人口減少、じわりと

私はNPO法人での活動と、『銚子スポーツタウン』という会社を立ち上げてスポーツツーリズムでの地域活性化を図っています。

もともと、父の代から続く水道工事店を経営していましたが、時勢も変わり、水道工事だけでは事業が縮小します。そこで新たにリフォーム事業も始めました。顧客ターゲットを絞ろうと考えた時、銚子の大きな問題にぶち当たりました。それが、人口減少です。

銚子の人口は1965年の9万1492人がピークで、2018年現在は6万2000人。さらに、高齢化率も35%と非常に高く、危機感を募らせていました。

■スポーツ大会が地域を潤す

地域活性のヒントを得たのが、趣味の自転車でした。11年前にクロスバイクを始めて以来、仲間と年に1~2回は大会に出ています。富士山で開かれている『富士ヒルクライム』に出たときのことです。参加者は7000人で、関係者を入れると1万人以上にもなります。大会は日曜日でしたが、登録が前日のため、参加者は前日入りします。

前夜の居酒屋は皆レースの関係者ばかりです。私たちの仲間は経営者が多いので、すぐに「1万人が一気に町にきて泊まったら、経済効果はどれくらいなのだろう」「もしこれが銚子だとしたら、ロケーションもいいし、魚もおいしいし、ニーズはあるんじゃないか」という話になりました。

例えば、洞爺湖の『アイアンマンジャパン』というトライアスロンの大会の場合、海外からの参加者も含めて1500人。加えて関係者は1000人。2500人が、洞爺湖に3泊すると、合わせて7500泊。僕らが泊まったのは1泊2万円のホテルで、エントリー費は8万円くらい。高額であっても、目的があれば1500人もの人が来るのです。

■官に頼らず、自ら動く

時を同じくして、11年日本経済新聞さいたま観光コンベンションビューローがスポーツツーリズムで地域の観光振興につなげようとしているという話を見て、「これだ!」と胸に刺さりました。銚子はトライアスロン大会も開かれている。町と訪れる人たちを結びつけ、産業として盛り上げられたら面白い、と考えたのです。

自作の経済効果試算と新聞の切り抜きを持って、商工会議所、観光協会の副会長と体育協会の会長に説明をしました。いずれも好感触ではあったものの、私自身、地方活性化の取り組みは行政が行うものだという認識があり、次の一歩が出ないまま呼びかけばかりし続けて時がたちました。

14年、銚子商工会議所副会長と観光協会の会長から「スポーツの、いつやるんだ」と言われ、そこで初めて自分でやってみようと思い至りました。知識がないのでインターネットで(一社)日本スポーツツーリズム推進機構(JSTA)という組織を見つけ、中山哲郎事務局長からアドバイスを仰ぎ、14年5月に13名でNPO法人銚子スポーツコミュニティを設立、今では賛同者も増えて44名の方が参加してくれています。

■大会を企画、開催へ

▲銚子市の各地に設置された「ラン&サイクルステーション」

最初は何をするべきかわからなかったので、趣味の自転車から発想を得て、ラン&サイクルステーションをつくりました。銚子の観光地に目印を立てて自転車で巡る仕掛けです。県内外の人にもわかるようにホームページでも紹介しました。また、『ツール・ド・ちば』など銚子のスポーツ大会で参加者の動向などのヒアリングも始めました。

そして自分たちが主催したのが、15年に開催した『犬吠埼エンデューロ』です。犬吠埼灯台から、県道を2.3km閉鎖して、景色を堪能できる自転車レース大会です。海岸線の道路を封鎖して行ったことに県外の人からは驚かれたのですが、休日でも交通量の少ない道路だったので開催できました。

もともと知識も経験も資金もなかったので、自分たちの手で実現するしかないという思いだけで突き動かされてきました。

銚子スポーツタウン・代表
NPO法人銚子スポーツコミュニティ・理事長
小倉和俊氏
1965年銚子市生まれ。91年に和光設備に入社し、2007年に代表取締役に就任。10年にNPO法人銚子スポーツコミュニティを設立し、理事長に就任。銚子青年会議所の理事長、中学校のPTA会長など豊富な経験を生かし、スポーツツーリズムの推進に取り組む。


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