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- 検診、日本で受けたい 中国人富裕層に口コミで広がる 【医療インバウンド】
検診、人間ドック、先進治療といった医療サービスを受けるために、海外から日本に来る外国人が増えている。「医療滞在ビザ」は入院を目的とする6カ月までの長期滞在や、複数回通院する外国人に渡されるものだが、制度化された2011年、70件だった発給数は、16年に1307件まで増加した。短期間の検診や療養が目的の訪問者を含めれば、医療を目的に日本に来ている外国人は、さらに多いとみられる。
医療目的で来日する外国人が増えるきっかけとなったのは、政府が10年に発表した新成長戦略だ。この中に「医療ツーリズム」に関する項目が盛り込まれ、アンケート調査による実態把握や、受け入れ体制の整備、展示会出展など国を挙げての海外市場への売り込みが始まった。
医療目的で日本を訪れる外国人で最も多いのが中国人だ。医療滞在ビザの国籍別発給数(17年)は、首位が中国の1149件、2位がロシアの82件で、3位にベトナムが続く。
月700人前後の外国人を自由診療で受け入れる聖路加国際大学聖路加国際病院(東京都中央区)も、外国人の患者の7割が中国人、2割がロシア人だという。直近2年は前年比2割増のペースで利用者が増えており、医療渡航者の受け入れが急速に増えている。
6割の患者は口コミで聖路加の存在を知る。「海外の富裕層の間で評判を得るには、口コミが有効」(原茂順一氏)。海外の展示会に出展したり、日本に利用者を紹介するエージェントに働きかけるなど営業活動にも力を入れる。
全国に71の病院を傘下に持つ徳洲会グループも、医療渡航者の受け入れに積極的だ。12年に外国人患者専用の受付窓口として湘南鎌倉総合病院(神奈川県鎌倉市)内に「国際医療支援室」を設置。この支援室で英語、中国語のほかロシア語、タガログ語など多言語対応で通訳や診療予約をコーディネートしている。徳洲会グループ全体の年間外国人受信者数は約1万5000人で、そのうち海外から来た医療渡航者は1000人前後だ。
1~2日の人間ドック 30万~50万円で受診
外国人が受ける医療サービスを見てみると、検診を目的にする人と、治療を目的にする人に分けられる。徳洲会の場合は半分が人間ドックを目的としており、15%程度ががん治療を受けている。聖路加国際病院の場合も件数が多いのは圧倒的に人間ドックだ。
1~2日の人間ドックを受けるために医療渡航者が支払う費用は、30万~50万円が相場だ。治療の場合は手術や治療の方法によって金額が大きく異なる。聖路加の場合は200万~300万円の手術が多く、毎月100万円かかる通院治療を1年以上続けたり、1000万円を超える手術を受ける人も珍しくない。
高額な費用が発生する一方で、医療渡航者の費用不払いは、ほぼないという。検診や治療の内容は来日前に決まっており、病院は費用を事前に受け取ることができるからだ。
関係者によると、医療渡航者に行われている治療は、中国やロシアでも受けられるものが大半だという。それでも高い費用を払って、彼らが日本までやってくるのは、自国の医療に対する不信感があるからだ。検査結果や診断に対する不信、あるいは、投与される薬に対しても偽物を疑う人が多いという。
日本の医療技術は高度だが、突出しているわけではない。しかし、世界的に「日本ブランド」に対する信頼は厚く、「信用できて安心感がある日本ブランドの医療サービスを受けたいと来日する人が多い」(徳洲会の渡部昌樹氏)という。
世界に目を移すと、タイ、シンガポール、韓国などが医療渡航者の受け入れに積極的だ。特にタイは、1997年にバーツ危機が起きたころから、医療サービスを売りにした外国人客の受け入れに、政府が力を入れてきた。医療技術の高度化や多言語対応、長期滞在可能な制度の整備などに積極的に取り組む。日本は高度な先進医療を受けられる医療施設が多数ありながら、大きく後れを取ってきた。
日本政策投資銀行では、日本の医療渡航者市場20年に潜在需要が年約43万人になり、観光を含む市場規模は約5500億円になると試算している。20年の東京五輪を前に外国人観光客が急増しているため、医療ツーリズムの利用者増加ペースにも弾みがつくとの期待もある。先進国では高齢化が進んでおり、さらに、アジア各国の平均所得が上昇したことで、安全で質の高い医療のニーズが世界的に高まっている。
国際イベントニュース編集長 東島淳一郎
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2009年全国賃貸住宅新聞社入社。劇団主宰者から銀行勤務を経て30歳で記者に転身。7年間の記者生活を不動産市場で過ごす。2016年9月、本紙創刊とともに現職。