「医療ツーリズムは地方創生という観点から拡大の余地が大いにある」と話す(一社)日本旅行業協会の青木志郎氏

都心部や観光地以外の地域で医療ツーリズム客を獲得するには、集客の仕掛けや宿泊施設の用意など受け入れ体制の整備が欠かせない。カギを握るのは自治体だ。

外国人患者誘致に官民で連携

東北初の重粒子線がん治療施設の開設に向けて準備が進む山形大学。2020年の治療開始に向けて治療施設の建設が進むとともに、近隣ではホテルの新設計画も持ち上がっている。重粒子線治療は放射線治療の一種で、最新鋭のがん治療として知られている。

重粒子線治療施設の総事業費は150億円に上るといわれ、県も税金を投入して支援している。この放射線治療装置を広く外国人患者にも利用してもらおうと、16年9月、山形大医学部を中心に経済団体や行政などが連携して「山形大学医学部先端医療国際交流推進協議会」を立ち上げた。県や商工会議所など30を超える企業・団体が参加し、荘内銀行の上野雅史頭取が協議会の代表を務めている。

協議会が取り組むのは、海外への広報や外国語対応、治療期間中に患者本人や家族が滞在するための宿泊施設の用意だ。また飲食店に向けて情報提供などを進め、外国人患者の受け入れの準備を着々と進めている。

自治体主導の医療ツーリズム誘致の事例は各地にある。愛知県は16年3月、「あいち医療ツーリズム研究会」を立ち上げ、県と医療機関で医療ツーリズムの受け入れ強化を始めた。県が音頭を取る形で、医療機関内の表示の多言語対応や医療コーディネーターの養成などを進めている。沖縄県では国家戦略特区を活用した医療ツーリズムの推進を検討中で、タラソテラピーなど海の素材を使った沖縄独自のサービスを商品化しようとしている。

検診と旅行セットで200万円のツアーも

医療ツーリズムによる地方創生の動きは、国が08年ごろ、医療ツーリズムを成長戦略の一つに組み込んだのを機に生まれた。今後も拡大するとみられているが、一口に医療ツーリズムといってもその内容は幅広く、外国人のニーズを取り込むには明確な戦略が必要になる。

日本旅行で医療ツーリズム事業の立ち上げに携わった一般社団法人日本旅行業協会(東京都千代田区)の青木志郎氏は「医療ツーリズムは、検査、治療、予防医療、リハビリの4つに大別できる。自治体はこの4つのどれを柱に据えるのかを明確にすべき」とアドバイスする。

例えば、中国人の需要が多いがん治療ならば、前出の山形県のような重粒子線治療など最新鋭の治療を受けられる医療機関がある方が有利だ。一方、長期のリハビリには温泉地が適している。さまざまな泉質の温泉施設を擁する秋田県仙北市は、湯池型の医療ツーリズムの推進を進めている。

多くの医療機関が対応しやすいのは、検診だろう。日本の信頼性の高い検診(人間ドックや精密検査)の人気は高く、企業が成績優秀な社員や代理店を招待するインセンティブ旅行(褒賞旅行)のパッケージに検査を組み込む需要がある。青木氏が以前担当した中国の自動車メーカーは、大阪の医療機関のPET検査(陽電子放射断層撮影)を1日貸し切り状態にして、20~30人が検査を受けたという。舞妓(まいこ)とお座敷遊びをする観光なども組み合わせたツアーで、1人当たりの費用は約200万円(うち検査費用は50万円程度)だった。「中国はがん患者が多く、日本でのPET検査の需要がある」と青木氏は話す。

どの分野の医療メニューをメインに据えるかを決めることは、集客の上でも重要になる。海外からの患者の斡旋(あっせん)については「検査ならば旅行代理店、治療は医療に詳しい人材が豊富な医療渡航支援企業、という具合にそれぞれ得意分野がある」(青木氏)ためだ。また時差がある地域と来日前からやり取りをすることもあるので夜間の対応に応じる旅行代理店などが望ましいという。


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国際イベントニュース 編集長 東島淳一郎国際イベントニュース編集長 東島淳一郎
2009年全国賃貸住宅新聞社入社。劇団主宰者から銀行勤務を経て30歳で記者に転身。7年間の記者生活を不動産市場で過ごす。2016年9月、本紙創刊とともに現職。

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