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欲しいものを自分で作る人たち
- 2017/5/10
- リノベーションスクール
▲岩手県紫波町でもリノベーションスクールは開催された
「草食」「ゆとり」「さとり」さんざん揶揄(やゆ)され続けてきたミレニアル世代も、気づけば30歳を超え始めている。多くの年長者が理解の外に置いてきたなか、彼らを理解し動かしてきた仕掛け人たちを追う。
欲しいものを自分で作る人たち
建築家の嶋田洋平氏が代表を務めるリノベリング(東京都豊島区)は、全国の自治体から招聘を受け、地元住民が参加するまちづくりイベント「リノベーションスクール」を開催する。その内容は、借り手がつかない不動産の再生策を2~4日間の会議で立案し、最終日に不動産所有者に対してプレゼンテーションするというものだ。プレゼンの会場には、地域住民や自治体の首長も招待され、晴れ舞台が設けられる。
再生案は単なる収益改善策ではなく、街の価値を高めて街全体の経済活動=稼ぎを増やすことを目的にする。民間自立型のプランでなければ継続した経済活動につながらないという強い信念のもと、補助金によるまちづくり事業と一線を画す。
2011年、嶋田氏の地元福岡・北九州で始まり、イベントで作られた再生策が、舞台となった小倉駅前の魚町商店街の姿を生まれ変わらせた。これが全国の自治体の注目を集め、現在までに30自治体で開催された。
数万円の費用を支払い3~5日間の会議に出席する参加者の中心は、地元を盛り上げたいと意気込む20~30代の住民たちだ。学生時代に都会に出て、その後地元に戻った人が多い。思い入れや、やりがいに走りやすい彼らのプランに対し、嶋田氏が継続して収益を上げるよう作り込みを厳しく叱咤(しった)するのが恒例だ。
合宿に近い会議の空気は、楽しさよりも苦しさの方が大きい。鳥取で開催したリノベーションスクールに参加した谷口俊博さんは「こんなにしんどいとわかっていたら、参加しなかったかも」と話した。だが、イベントが終わった数日後には、メンバーの有志が再び集い、不動産所有者や金融機関との交渉を始める。そのようにして数々のプランが実現されてきた。
地元の若者がまちづくりのリーダーとして覚醒するのは、「欲しいものが見つからない人に、欲しいものを作る方法を教えている」(嶋田氏)からだ。仲間と協力するDIYという手法とリノベーションスクールの相性が良いのは象徴的だ。ミレニアル世代は、欲しいものが無いのではなく、見つからないだけなのだ。
国際イベントニュース編集長 東島淳一郎
2009年全国賃貸住宅新聞社入社。劇団主宰者から銀行勤務を経て30歳で記者に転身。7年間の記者生活を不動産市場で過ごす。2016年9月、本紙創刊とともに現職。