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デービッド・アトキンソン氏「観光産業は「発信」から「研磨」へ」
- 2017/2/10
- デービッド・アトキンソン, 小西美術工藝社
インバウンド2000万人時代に向け、日本がすべき観光事業とは何か。小西美術工藝社のデービッド・アトキンソン社長は昨年12月に開かれた『IME2016』の中で、その道筋を示した。
インバウンド2千万人時代の観光立国のあり方
今、訪日外国人の数は2400万に達していますが、この3年間で日本の観光産業に対する考えは大きく変わってきました。3年前は「クールジャパン」ということで、コンビニや自動販売機、たこ焼き、100円ショップなど、日本特有の文化を世界に発信していきました。これは極論すると、「伝わればいい」という考え方です。
しかし、2年ほど前からは、自らの観光資源を「磨いていく」という考え方に転換しています。さまざまな認定制度を設けてみたり、観光資源を解説する仕組みを作ったり、体験できるプログラムを設けるなどの取り組みがはじまっています。なぜこうした仕組みが必要なのか。その理由は、観光のあり方が変化しているという点にあるのです。
かつての観光、ここでは「昭和の観光」と表現しますが、これは人口激増時代にある産業でした。日本の人口は終戦直後に8500万人で、ピーク時には1億3000万人にまで爆発的に増加しました。一方、ドイツは1945年で約7400万人、現在は8200万人にまでしか増えていません。自国民のみでここまで人口が増加した先進国は、ほかにありません。
そんな時代だったからこそ、「供給さえすればよい」という考えになってしまい、サービスのレベルは非常に低いままだったと私は思います。観光施設の運営者が客に体験を与えるような仕掛けを用意することもせず、たとえば神社であれば、そこに建物が立っているだけ。観光客はそれを写真に撮って帰る。宿泊するホテルは大型施設で、たいしたサービスがない。こうした考え方があったように思います。
人口が爆発的に増えている時代ですから、そうした観光であっても、次々と客はやって来ます。その内容に客が満足しているかどうか、観光地側からすればどうでもよかったのです。存在しているだけで毎日のように観光客が訪れて拝観料を落としていくという時代だからこそ成立した観光なのです。
しかし、現在の「平成の観光」は、人口激減時代におけるものです。ほうっておいても観光客は来てくれませんので、こうした考えは根本から崩壊していると言えます。だからこそ今の時代の観光は、発信するだけではなく、付加価値を生み出して単価を上昇させることが重要になるのです。
弊社が担当している文化財(施設)の平均拝観料は593円です。一方、先進国の文化財の拝観料は平均1891円となっています。海外では自国の文化財を守るため、人数の多さではなく単価の高さでカバーしています。
また、海外でも観光の主体はインバウンドになっていますから、インバウンド客の獲得法についても見習うべきでしょう。インバウンド客というのは質の高い観光を求めており、そのぶん高い単価でも十分に払ってくれます。日本でも海外と同様に、付加価値のある観光の仕組みを作り、人を集める必要があるでしょう。
では、付加価値とは何でしょうか。結論から言いますと、文化財であれば「体験」「解説」「案内」といったサービスです。こうしたサービスを付随することで観光客は日本文化を理解でき、それに対する対価として高い拝観料を支払ってくれるのです。
付加価値で単価増を狙う
私が特別顧問をしている京都の二条城も、以前はただ建物を見せるだけでした。観光客は空っぽの部屋や静かな廊下を見て回るだけで、そこには何の体験もなく、何の楽しみもありません。これでは、観光客がわざわざ遠いところからやってくるとは思えません。
私はその場に、装束を着て二条城の歴史を解説してくれる案内人を置き、能を行い、間接照明を設置して奇麗に見えるような仕掛けを施しました。こうすることで、二条城を訪れる外国人観光客の数は爆発的に増加したのです。
実際にやったイベントを紹介しましょう。二条城には江戸初期に後水尾天皇が行幸されたという記録があります。そこで、当時の行幸を再現するというイベントを企画したところ、大変な反響を受けました。後のアンケートで、このイベントに対していくら費用を支払ってくれるかを聞き取ったところ、多数の人が3000~5000円と回答してくれました。
繰り返しますが、現在の観光産業は人口激減時代にあります。こうした時代だからこそ、昭和の観光から平成の観光へとやり方を変えなければなりません。自らの土地の観光資源の魅力を磨いていけば、しっかりと単価を上げることは可能です。ぜひ、参考にしてみてください。
小西美術工藝社(東京都港区)
デービッド・アトキンソン社長(51)
1965年、イギリス生まれ。オックスフォード大学を卒業後、アンダーセン・コンサルティング、ソロモンブラザーズ証券を経てゴールドマンサックス証券へ入社。取締役、共同出資を務めたのち退社。2009年に小西美術工藝社へ入社。著書に『新・観光立国論』など。
国際イベントニュース 編集部 長谷川遼平
2012年入社。賃貸住宅に関する経営情報紙『週刊全国賃貸住宅新聞』編集部主任。起業・独立の専門誌『ビジネスチャンス』にて新市場・ベンチャー企業を担当。民泊やIoTなど、新産業を専門に取材中。