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コミケ来場者55万人の行方は ~シリーズ五輪の影~
- 2017/3/16
- コミックマーケット(コミケ), ビッグサイト問題, 東京ビッグサイト(東京国際展示場)
▲昨年12月に開催されたコミケの様子
東京ビッグサイトが2020年東京五輪のメディア会場として20カ月間使用される問題を受け、同人誌業界に衝撃が走っている。ビッグサイトでは、「コミックマーケット(通称、コミケ)」をはじめ年間100本超の同人誌関連イベントが開かれており、日本のコンテンツ産業を支える祭典の危機的状況に、関係者は悲痛な声を上げている。
「配慮に欠けた計画だ」
同人誌とは、出版社を通さずクリエイター個人が自費出版するコンテンツの総称。漫画やアニメ、ゲーム、ライトノベルなど、ジャンルは多岐にわたっている。こうした同人誌の祭典として広く知られているのが、毎年8月と12月に開催されているコミケ(主催・コミックマーケット準備会)だ。1975年に初めて開催された同イベントはボランティアによって運営されており、昨年12月に開催された際には3日間で延べ55万人が参加した。
五輪を巡る会場問題は、コミケ開催において死活問題だ。ビッグサイト全館を借り切って開催されてきた同イベントは、2019年4月から20年11月の間、これまでと同じ規模・場所で開催することはできなくなる。運営に携わる有限会社コミケットの里見直紀氏は「可能な限りビッグサイトでの開催を検討しているが他会場での開催も考えている。多数のボランティアスタッフにより運営が行われているので、地方開催には容易に踏み切れない」と語る。
都はメディア会場としてビッグサイトを使用する期間中、代替展示会場を建設する予定だ。だが、同施設の面積は現状のビッグサイトの4分の1程度。コミケ開催にはあまりに小さすぎる。「当初より配慮がなされたことについては、関係者のご努力に感謝している。だが、そもそも完全な代替手段がなく、一定期間使用できないということ自体が、展示会主催団体や出展者、来場者への配慮が欠けていたと言わざるを得ない」と怒りをにじませる。
コミケだけではない多数のイベントに危機
同人誌関連の展示会はコミケのほかにも多数ある。ケイ・コーポレーション(東京都新宿区)がビッグサイト全館で開催する「COMIC CITY」や、ユウメディア(同台東区)が主催する「オンリーフェスタ」など、併催展も合わせれば100本超のイベントがビッグサイトで開かれている。1本のイベントで取引される金額も、他の商業展示会に見劣りしない。里見氏によれば、1回のコミケ開催内で出展者が販売する本の数はおよそ800万冊。一冊400円と仮定すれば、3日間で約32億円が売り上げられていることになる。
打撃を受けるのは出展者だけではない。同人誌の印刷やグッズ製造を手掛ける緑陽社(東京都府中市)の武川優社長は、五輪問題によって関連会社が受ける影響について「売り上げの4割が落ちる」と話す。同社の顧客は同人誌を制作するクリエイター(通称、サークル)約3000名だ。年間約6000点、500万冊の同人誌を印刷している。「知り合いの印刷会社も事情は同じ。みな、だいたい40%は落ちると見込んでいるようだ。コミケだけではなく、20カ月間の影響は大きい」と語る。
同人誌関連イベントの場を奪うことで生じる最大の損失は、日本のコンテンツ産業の発達を遅らせることだ。コミケなどに参加するサークルのほとんどは20~30代で、兼業で作家活動を行っている。中には出版社で執筆するプロの漫画家もおり、こうしたイベントがきっかけで出版社からオファーを受けることもある。
コンテンツ産業の源流を絶つ行為
武川社長によると、コミケに参加するサークルのうち65%が商業メディアでの執筆を希望しているという。コミケとはプロを目指す若者が自らの作品を発表する場であり、実際に同人誌関連イベントからプロになった作家も多数いる。富樫義博や高橋留美子など、現在商業メディアで活躍を続ける作家の多くが、同人誌出身だったと武川社長は語る。
「同人誌とは、漫画やアニメなどのコンテンツ産業にクリエイターを供給するインキュベーター(保育器)だ。20カ月間という長期にわたってその流通・交流の場が失われるということは、コンテンツ産業の源流を閉ざす行為に他ならない」(武川社長)
昨年、幕張メッセでアメリカンコミックの祭典「東京コミックコンベンション」が開催された際、海外からも多数の来場者・メディアが会場に押し寄せた。開会式では世耕弘成経済産業大臣が登壇し、「自動車や繊維だけではなく、映画や漫画、アニメといったコンテンツ産業を成長させていくことも重要だと考えている」と述べた。一方で、コンテンツの担い手であるサークルの場が消失の危機にあり、関係者らの怒りの声はやむ気配を見せない。
五輪開催まであと3年。だが、展示会の開催に向けた動きは通常3年前からはじまるともいわれており、残された時間はあまりにも少ない。
国際イベントニュース 編集部 長谷川遼平
2012年入社。賃貸住宅に関する経営情報紙『週刊全国賃貸住宅新聞』編集部主任。起業・独立の専門誌『ビジネスチャンス』にて新市場・ベンチャー企業を担当。民泊やIoTなど、新産業を専門に取材中。