第30回 中国経済に根付く「ご近所商売」[今日の中国]
- 2021/1/17

路上販売に見る、商売の原点「近い」「安い」「便利」
早朝の日課として1時間ほどのジョギングをしています。25年間、雨や雪、台風のとき以外は毎日走っていますが、自宅マンションに戻ってくると入り口付近で近所の農家が必ずと言っていいほど路上販売を行っています。これも25年間変わらない風景です。
路上販売は非常にお得です。販売している野菜はその日の朝に収穫した新鮮なもの。農家が直接販売しているため、近所の八百屋で販売しているものよりも格安です。例えば青菜ならば、八百屋では500gで6元(約93円)のところ、路上販売では2.5元(約39円)。近所の人に人気が高く、朝6時でも買いに来る人がいます。
路上での商売は他にもあります。例えば、「修理屋」です。電化製品や窓、鍵などさまざまなものを修理してくれます。修理に使う器具をバイクに積んで、対応できるものを書いただけの簡素な看板を掲げて路上で営業しています。炊飯器の修理ならば40元(約620円)程度。中国では家電などの価格は安く、故障も多いので、こちらも非常に人気です。このような「ご近所」を商圏とした商売が今でも成り立っています。
こうした「ご近所商売」は最近隆盛を極めているオンラインサービスにも通じています。2020年は新型コロナウイルスの影響でオンラインショッピングが急速に伸びましたが、それと同じように宅配食サービスも急激に広がりました。メニューや食材をネットで注文すると自宅に届けてくれるサービスですが、最近では自宅ではなく、自宅のすぐ近くにある保管所に商品を届け、注文者はそこに受け取りに行く形が増えています。
自宅まで届けてくれるはずのサービスが、なぜこうした形になったのか。それは、宅配サービスのほとんどがバイク便ですが、集合住宅に届ける際に歩行者や子どもとの接触事故が急増したのです。そのため、集合住宅の敷地にバイク便が入らないよう、すぐ近くに保管所を設け、そこで受け渡しを行うようになりました。商品の受け取りはSNSを通じて行われるため、他の人が持っていくことはできません。それに、ご近所に住む人の物を盗むような真似はしないという安心感もあると思います。これも中国の「ご近所商売」の新しい形の1つかもしれません。

もっとも、冒頭で上げた路上販売は上海では違法行為となります。取り締まりも非常に厳しいのですが、路上販売をしている人たちはすぐに逃げられるように商品をカートに積んだまま、お金も腰に付けたバッグから出し入れして営業しています。パトロールが来るとすぐに逃げ去り、いなくなるとまたどこからか戻ってくる。決して褒められる行為ではありませんが、それほどまでに「ご近所商売」が消費者にとってもなじみ深いものになっています。
オンラインによって自宅にいながら消費できる現代ですが、それを陰で支えているのはこうした「ご近所」を商圏とした昔ながらの商売の風習なのかもしれません。中国での商売には「近くて便利」という考えがいかに大切かということを、あらためて身に染みました。
おすすめの記事
第29回 中国では経済回復の兆し[今日の中国]

1964年福岡県生まれ。バックパッカーとして各国を回った後、国内大手小売り会社に入社し海外事業部に配属。以降33年間、海外生活が続き、8年前から中国で生活する。中国企業の副総経理を務める。