政府方針に組み込まれる【医療インバウンド10年の軌跡#2】
- 2018/12/10
政府の成長戦略に「医療インバウンド」が登場したのが2010年。海外の富裕層が大挙して日本にやって来るイメージが先行し、全国の自治体や医療関係者が一斉に動き始めた。小泉政権で始まった「ビジット・ジャパン・キャンペーン」の流れにおいて、インバウンド拡大戦略の新たな切り口としてもてはやされた。

インバウンドの新しい切り口として登場
日本で医療インバウンドが動き出したのは2011年です。10年6月16日に政府の新成長戦略の中で具体的な方策が打ち出されました。民主党政権、菅直人首相時代です。私が知る限り、政府の方針で医療インバウンドが取り上げられたのはここです。7つの戦略と成果を掲げ、ライフイノベーションによる健康大国戦略とうたい、市場基盤50兆円、新規雇用は284万人など、具体的な目標や数字をあげています。医療滞在ビザ制度、医療機関によるネットワークの構築、外国人の医師、先端の機器による診断やガン・疾患の治療等、ここで上がっている具体的な方策は、今、国が実施していることのほとんどです。
成長戦略で医療インバウンドという考え方が出た途端、病院や自治体など、いろいろなプレイヤーからお話をいただきました。医療とインバウンドと聞くと、なんとなく海外の富裕層がどっと来るイメージを持つ人が多いのです。ただのインバウンドという言葉ではそうでもありませんが、頭に「医療」の文字がつくだけで、それぞれの国の富裕層がやって来るイメージが広がりました。
「ビジット・ジャパン・キャンペーン」をご存じでしょうか。小泉政権時代に始まった海外から人を連れてこようという取り組みです。それまで日本はODA予算をとり、国際貢献のためにお金をたくさん使っていました。しかし巨額のお金を使っても日本が国際貢献をしていることは、外国の方々に知っていただけませんでした。そこで、巨額の予算をODAに使うより、そのお金を使い日本に海外から来てもらう方に力をいれようとなり、03年に「ビジット・ジャパン・キャンペーン」という国策のキャンペーンが始まりました。7年たち、観光庁も、その間に観光旅行、学生交流、MICE、ビジネストリップなどいろいろな切り口で観光というものに取り組みました。次の一手として、海外では医療目的で外国の人が来ているということを知り、新しい観光資源の発掘として医療を取り上げたのです。
自治体、医療通訳、観光地、ホテル・旅館、施設、旅行会社が一緒になって研究組織をつくりました。私も何度も参加しました。観光庁はすでに医療分野を観光資源とみなしておりました。その翌年、菅首相のときに新成長戦略として医療観光が本格的に始まったのです。
医療インバウンドの主な目的は国際貢献や地域経済の活性化です。日本に来て、見てもらう。いろんな地域で医療をどのように観光資源として組み込むかというのがテーマになります。その当時、日本政府によってDMO(デスティネーションマネジメントオーガニゼーション)という地域の活性というキーワードも生まれました。ちなみに、海外では同様の地域活性という意味でDMC(デスティネーションマネジメントカンパニー)という言葉を使っています。
(一社)日本旅行業協会
国内・訪日旅行推進部
青木志郎副部長
旅行代理店大手の日本旅行に20年勤務。10年前から医療診断・治療目的で来日する外国人と日本の医療機関をつなぐ医療渡航支援業務に携わる。
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2014年よりカナダに渡り、バンクーバー、レイクルイーズを経てトロント在住。教育・人材業界でWEB・紙面の編集者/ライターとして勤務後独立。経済全体を取材し、住宅、不動産、旅行事情を様々な専門メディアで執筆中。2018年より国際イベントニュース編集部にパートナー参加。