(一社)日本旅行業協会 国内・訪日旅行推進部 青木志郎副部長
旅行代理店大手の日本旅行に20年勤務。10年前から医療診断・治療目的で来日する外国人と日本の医療機関をつなぐ医療渡航支援業務に携わる。

国民皆保険のある日本には縁がなかった

医療診断、治療目的で来日する外国人が増えている。入院や複数回通院するため6カ月以上滞在する外国人向けの「医療滞在ビザ」 は制度化から6年で発行数が19倍になった。旅行会社の立場から、医療渡航者と日本の病院をつないできた青木志郎氏が、10年間の変遷を語る。

私は旅行会社の出身で、日本旅行に20年位おりました。海外からのインバウンドに携わり約20年です。インバウンドという言葉はもともと旅行産業の業界用語でした。インバウンドという言葉が一般的になる前から海外に行き、海外の旅行会社に国内旅行を売る仕事をしていました。
タイトルをみて医療インバウンドの歴史は10年しかないのかなと思うかもしれませんが、まさに、医療が観光と結びついて10年ぐらい。まだ日は浅いのです。しかし、ここへきてさまざまなプレイヤーが登場しています。携わるプレイヤーが多いので、なかなか一口に医療観光とか医療インバウンドについて語れません。医療という切り口をどのようにとらえるか、携わる立場によってだいぶ変わります。ここでは私が独自に分けた分類やカテゴリーから、医療インバウンドについて説明します。

日本において、医療インバウンドとはどう定義されているのでしょうか。医療滞在ビザ制度ができたのは2011年1月1日です。始めに、それ以前の状況について解説します。

2010年以前、旅行会社の商品種別の中に「医療」という項目はありませんでした。まさか医療が観光の一種になり、海外から来る目的のカテゴリーになることなどほぼ誰も知りませんでした。旅行、修学旅行、ビジネストリップ、いま注目されているMICEなども目的をもった旅行です。これらは昔からあり、観光とイメージが結びつきやすく、旅行会社はこういった旅行は得意としています。いまでは医療インバウンドを旅行会社がやることは珍しくありませんが、2010年まではこうした案件は一切ありませんでした。
日本には国民健康保険制度があります。病気になれば健康保険証を持ち病院で治療します。実費治療はほぼありません。歯などの治療も含めて、保険医療で治すという選択肢があります。制度が整っていることもあり、日本人には海外に行って治療するという発想がありませんでした。

しかし、海外では国民健康保険制度はほとんどの国で存在しません。オバマ前大統領時代にオバマケアと呼ばれる制度を導入しましたが、トランプ政権下では見直しや廃止の議論に上がっています。アメリカでは民間の保険会社に個人が加入し、保険会社の指導に応じて健康診断などを受診します。
中国にしろ、韓国にしろ、タイにしろ、医療保険制度はありません。彼らは、よりよい医療を求めて海外に行きます。日本人と医療に対する感覚の違いは、根本に医療保険制度の違いがあるのです。

日本で昔からある治療目的の旅というと、湯治があります。農閑期に農村の方が体を休めたり、お相撲さんが体を壊したときに1週間とか長期間にわたり温泉で療養するといったものですが、この湯治は、旅と結びついていたと思います。あるいは、青森の玉川温泉はガンに効くといって全国から人が集まります。ドイツの温泉地バーデン(入浴という意味)ではローマ帝国時代から療養地として観光に使われてきました。恐らく、2010年以前、旅行業界において、医療と旅が結びつく事例といえばこれくらいの認識しかなかったと思われます。私も医療観光という言葉を聞いたとき、「医療と観光を結びつけていいのかな」という感覚がありました。
特異な例では、お子様の臓器移植のためにアメリカにいくとか、ロシアでやけどを負ったお子様が急遽ビザなしで北海道の病院にきたという話はありました。それ以外には医療を目的に海外に行くとか、海外から来るとかいうことはあまりありませんでした。
国の政策でも、経済産業省は医療観光という言葉は使わず、「ヘルスケア産業」といいます。観光庁は「医療観光」として、観光を主眼にしています。


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