「4日で4000万円売り上げる」中小宝石メーカーの戦い @ 国際宝飾展

▲中国人の間では、日本製の宝飾品に対する信用度が高い

「4日で4000万円売り上げる」国際宝飾展 中小宝石メーカーの戦い

「今回は4000万売らんといかん」。国際宝飾展(1/24~27@東京ビッグサイト)に出展したジェムクレール(山梨県甲府市)の社長・石原隆征は、眉間にしわを寄せ、少しも冗談をふくまぬ表情で話した。例年の倍に当たる4小間(6メートル四方)で出展したため、目標額を2割引き上げたのだ。
4000万円といっても、粗利は800万円。社員10人の中には職人もいる。そのため、原材料となる石を仕入れ、新しい商品を作り、顧客に売る作業を常に続けなければならない。開催期間は4日間だが、商品を梱包し運ぶ日程を加えると、1週間を費やしている。この間、本社の営業部門は休業状態となるため、石原にしてみれば、これぐらい稼がなければ出展する意味などないのだ。

買い手の6割は中国人

鵬清(兵庫県神戸市) 清水勝央社長(69)

石原の目標額4000万円は決して突出した数字ではない。同じく4小間で出展したジュエリー・ミウラ(東京都台東区)の常務、熊野順一の場合は「1回の出展で2000万~3000万円が目安」、2小間で出展した真珠専門の加工会社、鵬清(兵庫県神戸市)の社長・清水勝央は「今回は良くない」と顔をしかめつつ「最近は悪いと1000万、良くても5000万円くらい」とこぼした。

つまり、今回出展した1100社がそれぞれ1000万円を売り上げたとすれば、この展示会4日間で100億円以上の商売が行われることになる。決して大袈裟ではないだろう。

いったいこれだけの宝飾品を誰が買うのだろう。答えは簡単に見つかった。出展する各社とも「売り上げの6割は中国人バイヤー」と口を揃えた。これが、毎年5月に開催される神戸の国際宝飾展になると、9割になる。「中国人にしてみると、神戸は近い上に飛行機代も安くなる。1日で買い付けを終わらせて、さっさと日本のどこかへ観光に行く」と話す熊野は、昨年「5月でもスキーができる場所を教えて欲しい」と中国人バイヤーに相談され、北海道のスキーリゾートの予約を代行した。

ジュエリー・ミウラ(東京都台東区)
熊野順一常務(51)

中国人は日本製の宝石を好む。だが、その理由は、職人たちの腕とは別の部分にある。石や真珠そのものの質が高く、偽物や不純物の割合も少ないため、換金できる資産として信用度が高いのだ。

中国で一番大きな額面の紙幣は100元札だが、これは日本円にして1700円相当にしかならない。そのため、100万円分の紙幣を持ち運ぼうとしたら、100元札を600枚用意しなければならない。同じ資産価値を持つ宝石であれば、ポケットに入れて運べることも、彼らが好む理由のひとつだ。

現金受け渡しは香港で

▲ガラスのショーケースの中には1億円以上の値札が付いた商品も並んでいた

会場では、さぞ厳かに現金の受け渡しが行われていそうだが、中国人相手の商売では、東京で現金が受け渡されることはあまりない。日本で売り買いをすると、買い手側の中国人バイヤーは消費税や輸入税を払わなければならなくなる。そのため、東京では契約書だけを取り交わし、商品受け渡しは、税金が一切かからない数カ月後の香港の展示会で行うのが通例だ。

その結果、香港の宝飾展は今や世界最大規模になった。毎年2月末に開催される「香港インターナショナル・ジュエリー・ショー」「香港インターナショナル・ダイヤモンド、ジェム&パール・ショー」には4400社が出展する。日本メーカーが集まるジャパンエリアは特に人気があり来場者でごった返す。「5日間で1億円の商売を成立させて当たり前」(清水社長)というビッグビジネスが成り立っているのだ。

真珠に関していうと、今でも世界で流通する商品の6割は神戸に集まる。加工や取引業者の多くが神戸にあるからだ。にも関わらず、取引の場所は香港に移ってしまった。「展示会会場の中だけでも経済特区にして、そこでの取引は無税になれば、また日本に市場が戻るかもしれないけどさ」という清水のつぶやきは諦めに包まれていた。


国際イベントニュース 編集長 東島淳一郎国際イベントニュース編集長 東島淳一郎
2009年全国賃貸住宅新聞社入社。劇団主宰者から銀行勤務を経て30歳で記者に転身。7年間の記者生活を不動産市場で過ごす。2016年9月、本紙創刊とともに現職。


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