▲今年8月に秩父で開かれたアニメ作品の聖地巡礼イベント

毎年3月に開催されている「アニメジャパン」に参加する地方自治体が増えている。アニメ作品の舞台となった地域を訪れる「聖地巡礼」に注目し、観光に生かしたい考えだ。昨年9月にはKADOKAWAなどアニメ制作関連会社とJTB、日本航空など旅行関連会社がアニメツーリズムを推進する団体を立ち上げ、自治体に向けて聖地巡礼ビジネスを加速させている。その一方で、安易にアニメで地方創生を狙う姿勢に警鐘を鳴らす声もある。

聖地巡礼、一攫千金は「待ちの姿勢」で

経済効果3億2000万円

「秩父を舞台としたアニメを作りたい」。埼玉県秩父市観光課の中島学さんの元に知らせが届いたのは、2010年11月だった。作品名は『あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない』。後に映画、漫画、実写ドラマ化した人気作品だ。今年2月にも関連イベントを開催すると、放送から6年たったにもかかわらず約2000人が参加した。作品の放映は11年の4~6月だった。物語の中に地元鉄道の車両を登場させたいと、西武鉄道に問い合わせが届いた。

11年7月に秩父市、秩父観光協会、西武鉄道など8団体がアニメによる観光振興を目指す「秩父アニメツーリズム実行委員会」を結成していたことから、その知らせは秩父市の中島さんにも伝えられた。市にとってはアニメファンに地元をPRする絶好のチャンス。
もっとも、当時は作品がヒットするかどうかもわからなかった。アニメを地元の観光振興に生かす上で中島さんがもっとも大切にしたのは、「作品に対して出しゃばらないこと」だった。

製作委員会が地元をロケハンする際も参加しない。市内のお勧めスポットの紹介すらしない。
市が作品制作に協力したことといえば、作品に登場するバイクを描写する参考として、ナンバープレートの見本画像を送ったくらいだった。

 

「アニメファンは目が肥えているので、自治体による色気が少しでも感じられると、純粋に作品自体を楽しんでくれない。大切なのは作品を楽しんでもらい、ファンが自発的に秩父に関心を持つようになってもらうこと。だから、制作に対して過度な協力はしないようにした」

 

その一方で、放送開始に合わせて市内でPRする準備を進めた。
市内の施設でアニメのポスターを貼り、商店街の街頭につるすフラッグも「あの花」仕様へと変更。放送終了後の7月には、作品内に登場する地元を地図上にまとめた「聖地巡礼マップ」を配布した。

聖地巡礼マップ

▲『あの花』関連イベントは、放送から6年経った今も続いている

すると、作品を見た若者が徐々に集まるようになってきた。地元の商店街も「あの花」ブームを歓迎した。
作品が放送された1カ月前に起きた東日本大震災により、全国的に観光控えが顕著になっていたからだ。
例年より観光客の減少が予測されていたにもかかわらず、市内にはたくさんの作品ファンが訪れた。市内では「あの花」関連イベントが複数開催され、放送開始から半年で約8万人が訪れた。経済効果は約3億2000万円に上ったという。

作品づくりに口出ししない

アニメによる観光振興を狙う自治体は、年々数を増しているようだ。
(一社)日本動画協会(東京都千代田区)の石川事務局次長は「観光だけでなく、制作会社を地域に誘致したいなどさまざまな相談を受ける」と話す。

今年3月24~25日に東京ビッグサイトで開催された「アニメジャパン」には例年よりも多数の自治体関係者が来場したという。もっとも、秩父市の「あの花」のようなブームをつくるのは簡単ではなさそうだ。

 

「現在新作アニメは年間約300本作られているが、そのうちヒットするのは数本。どれがヒットするかは制作サイドにもわからない。既存の人気作品や有名クリエイターにちなんで地域にファンを誘客する場合は別だが、制作段階から自治体が観光振興を目的にプロジェクトに参画するのは難しい」と石川次長は語る。

では、アニメを観光振興に生かすにはどうしたらいいか。中島さんはこう語る。「基本は待ちの姿勢。舞台として選ばれても、作品に口を出さないし、過度なPRもしない。でも、何もしないということではなく、アニメファンを受け入れるために地域の企業と連携したり、ファンのためのイベントは企画する」石川次長も似た考えだ。

「観光振興のために地元を舞台にしたアニメを作ろうと考えるなら、何年もヒット作が生まれない覚悟で継続的に取り組む必要がある。それよりも、ファンが舞台となった地域に親しみを持ってくれたときに、自治体や地元の商店などが作品やファンを理解し、受け入れる体制をつくることが大切」

気に入った作品のためなら、海をも渡り、数万円のグッズも買い、何年にもわたって費用を投じる。アニメファンの恐るべき経済力が地域産業を豊かにする一方で、聖地巡礼の当たりを引くのは容易ではない。

経済効果数億円規模の一獲千金を狙う企業・団体は増えるものの、気難しいファンの心を掴むには、口出ししない「待ちの姿勢」が求められるようだ。


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国際イベントニュース 編集部 長谷川遼平

2012年入社。賃貸住宅に関する経営情報紙『週刊全国賃貸住宅新聞』編集部主任。起業・独立の専門誌『ビジネスチャンス』にて新市場・ベンチャー企業を担当。民泊やIoTなど、新産業を専門に取材中。

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