中国人の利用が全体の88% 医療渡航ビザの利用状況【医療インバウンド10年の軌跡#7】
- 2019/2/25
取得しやすく、期間の制限もおおらかな医療渡航ビザは、制度ができてから6年で20倍近く増加した。利用者の大半は中国人だが、「インバウンド観光客の全対数から見れば、まだ非常に数が少ない」と青木氏は話す。利用者拡大のポイントはプロモーションと差別化戦略にあるという。

ロシアにも高い可能性
医療渡航ビザの制度は2011年1月にできて、その当時70件でしたが、16年は1307件まで伸びました。中国人が多く44%を占めていましたが、16年に至っては88%と、とてつもない状況です。観光客の全体数でも中国がトップで、韓国、台湾と続きますが、医療観光においても同じことが言えます。
北京に3年駐在していましたが、中国で病院にかかるのは大変です。朝早く病院に行き、ドクターの順番を押さえます。ドクターにもランクがあり、費用が高くかかるお医者さんから、安く済むお医者さんまでさまざまです。日本と同じように、薬をもらうために処方箋を出すお医者さんもいます。中国の方は、最初は高くても信頼のおけるお医者さんに行きます。2回目、3回目ともなるとランクを下げます。
中国から来た方は、「日本は本当に親切」と言います。医療渡航ビザの制度が広く知られれば、世界で評判も広がるでしょう。ロシアの医療水準もまだ、高いとは言えません。モスクワなどはそうでもないかもしれませんが、極東のウラジオストクなどからは日本に来たほうがいいという人もいます。ベトナムも経済発展が目ざましくて、親日的なため日本に来る方が多いです。ベトナムの医療機関と交流がある日本の医療機関もあるので、ベトナムも医療観光が伸びる可能性が高いと言えると思います。
しかし、1307件は非常に少ない数字です。2800万人の方が海外から来ているのです。もう少しスムーズに取れるようにするのも政策次第だと思います。
差別化とプロモーション
医療インバウンドを迎えるに当たり、受け入れ側にとって重要なのは、海外からわざわざ日本に来るに値するオンリーワンのサービスを提供できるかどうかです。例えば、「中国人向けの検診が得意」というようなことが非常に重要です。受診者の側にしてみれば、行き先は東京でなくても構わないのです。海外からわざわざ日本に来るくらいですから、東京で乗り継いで地方に行くこともそれほど苦ではありません。
PET検診を始めたときに、旅行代理店に勤めていた私は独占契約を結んだと言いました。これはオンリーワンになりました。その施設に申し込みたいと思った時に、私が勤めていた旅行会社からしか申し込みできない状況を作りました。非常に多くの中国の方から問い合わせがありましたが、入り口を一元化したのです。これも差別化です。いろいろな立場や、その地域の特性を生かして差別化するのが一番いいと思います。
差別化に当たり重要なのはプロモーションです。「中国人ドクターもいるし、検診設備も最新。いつ来ても大丈夫」という話をよく聞きます。受け入れ体制は十分でしょう。しかし、プロモーションをやらないと人は来ません。海外の人が知らないからです。うちはこういう特徴があるということを継続的に発信しなければ人は来ません。設備が整っているのに人が来ないという病院はたくさんあります。
(一社)日本旅行業協会 国内・訪日旅行推進部 青木志郎副部長 旅行代理店大手の日本旅行に20年勤務。10年前から医療診断・治療目的で来日する外国人と日本の医療機関をつなぐ医療渡航支援業務に携わる。
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2014年よりカナダに渡り、バンクーバー、レイクルイーズを経てトロント在住。教育・人材業界でWEB・紙面の編集者/ライターとして勤務後独立。経済全体を取材し、住宅、不動産、旅行事情を様々な専門メディアで執筆中。2018年より国際イベントニュース編集部にパートナー参加。